ここで、少々長い引用になりますが、日本の政府が電磁波に対してどのようなスタンスに立っているかを知るために、国会における質問と答弁の内容を抜粋しておきます。
「電磁波の人体への影響防止と携帯電話の中継鉄塔建設紛争解決に関する質問主意書」
質問書の提出日:平成14年3月14日 質問者:小沢和秋議員、赤嶺政賢議員
『ここ数年、携帯電話の急速な普及とともに、全国各地でその中継鉄塔建設をめぐる地域住民と電話会社の紛争が続発している。その原因は、第一に電磁波の人体への影響に対する不安であり、第二に住民にほとんど説明もなく、建設を強行しようとする会社のやり方にある。 よって次のとおり質問する。
(一)WHO(世界保健機関)傘下のIARC(国際がん研究機関)は昨年六月、高圧送電線や電化製品など、「超低周波の磁界は『ヒトに発がん性の可能性あり』」と全会一致でランク付けをした。 国内でも、昨年十月、国立環境研究所が、高圧送電線や家電製品などから出る電磁波の影響について、細胞を使った実験を行い、「がん抑制作用を持つホルモン『メラトニン』が磁界によって働きが阻害される」と発表した。
これらの発表は、「電波はX線や紫外線に比べて、周波数が低いので細胞などに傷を起こす力がない」などという政府や企業のそれまでの説明とは異なるもので、住民が不安になるのも当然ではないのか。 電磁波の人体への影響はいまだ充分に解明されていない。したがって電磁波の安全性については、極めて慎重な対応が求められていると思うが、政府の基本的な認識はどうか。
(二)WHOでは、問(一)のIARCの報告のなかで、電磁波の被曝(ひばく)を減らす安全で低コストの方法を提供するなど、各国政府や電力会社に「予防対策」を取るよう求めている。 携帯電話についても、電磁波の安全性が確立されるまで、「予防対策」を取るべきではないのか。 イギリスでは、二〇〇〇年五月の政府諮問の専門委員会の提言(スチュワート報告)を受けて、健康省が携帯電話と健康被害に関するリーフレットを作成し、「脳の発達段階の子どもは電磁波の影響を受けやすい」といい、十六歳以下の携帯電話の使用制限を促すことなど、業界の協力のもと、全使用者向けの請求書に同封し、通知を徹底していると聞く。教育省も十六歳以下については、緊急時以外は携帯電話を使用しないよう、各学校に通知したと聞く。 携帯電話について、WHOの推奨にある「幼稚園や学校、遊び場近くに基地局を選ぶ際には特別に配慮する」ことなど、子どもに対して、なんらかの「予防対策」を取る考えはないのか。
(三)携帯電話について、人体への電磁波の吸収率を示すSAR基準値は、日本はアメリカよりも甘くなっている。日本は大人も子どもも同じ基準値とも聞く。これらは事実なのか。数字を挙げ、なぜアメリカより日本が甘くて良いと考えているのか説明をされたい。またアメリカはどういう経過でSAR基準値を厳しくしているのか説明をされたい。
(四)総務省は昨年五月、市販携帯電話の機種ごとの電磁波量(SAR値)のデータを公表した。今後新たな機種など、定期的に公表すべきだと考えるがどうか。アメリカではメーカー大手のモトローラ社などがホームページで自社製品について、SAR値が検索できるサービスをはじめていると聞く。情報の不足が電磁波への不安をかきたてているのではない か。メーカーに対して、SAR値のデータ公表や表示を義務付けるべきだと考えるがどうか。
(五)わが党の吉川春子参議院議員は、一九九七年三月十八日の参議院労働委員会で、男性が出勤途中に電車の中で急死した事例を挙げて、携帯電話が出す電磁波がペースメーカーに及ぼす影響について質問をした。当時の滝澤・厚生省薬務局医療機器開発課長は、「留意事項でございますが、ペースメーカー装着部位から二十二センチ以上離して使用したほうがいい」と答弁し、郵政省もその後の指針にしている。最近では、昨年六月に図書館内の盗難防止装置の電磁波によって八十歳の女性のペースメーカーの設定がリセットされる事態が起こり、厚生労働省も注意を喚起したと聞く。どのように注意を喚起したのか説明をされたい。医療機器に影響があるものが、人体にまったく影響がないなどと言えるのか。やはり、政府の電磁波対策は万全と言いきれないのではないか。
(六)わが国では電磁波の人体への安全性の問題は総務省が所管している。しかし、総務省は本来、携帯電話を普及する行政機関である。そういうところが所管して、電磁波の安全性について、充分な対応ができるかはなはだ疑問である。人の健康を守る立場にある厚生労働省が所管するのが当然ではないのか。この際、所管を改めるべきだと思うがどうか。
(七)いま、大きな問題になっているのは、携帯電話会社が住民によく説明もせず、抜き打ち的なやり方で中継塔を建設しようとしていることである。(中略)こうした住民無視のやり方こそ、事態を混乱させる原因と考えるがどうか。(後略)』
この質問に対する政府の考えは、次の答弁書に見られる。全文読むと大変明瞭であるが、
スペースの関係で要点のみとする。
「電磁波の人体への影響防止と携帯電話の中継鉄塔建設紛争解決に関する質問に対する答弁書」平成14年4月26日 内閣総理大臣 小泉純一郎
『お尋ねの「電磁波」が何を指すのか必ずしも明らかではないが、無線通信に用いられる電波については、従来、継続的な研究、国内外の関連情報の収集及びその検討を行い、それが人体に好ましくない影響を与えないための適切な基準を策定するなどしてきたところであり、国民の健康にかかわる重要な問題であることから、今後とも適切な対処に努めてまいりたい。(中略)
我が国の電波の強度の基準及び局所SARの基準(以下「我が国の基準」という)は、科学的根拠に基づくものであり、適切なものと考える。(中略)
我が国の局所SARの基準は、米国の局所SARの基準とは異なっているが、科学的根拠に基づくものであり、適切なものと考える。(中略)また、欧州委員会に加盟する国を始め多くの国は、我が国と同様に国際ガイドラインにおける局所 SARの基準を採用しているところである。 また、米国の局所SARの基準は、米国電子電気学会における検討結果を踏まえ米国規格協会により策定されたものであるが、その具体的な根拠等の詳細については承知していない。
(中略)
我が国の局所SARの基準に適合する携帯電話端末であれば、それが人体に好ましくない影響を及ぼすことがないから、そのような携帯電話端末について、政府がそれぞれの局所SARの数値を公表する必要はないものと考える。
(中略)
(六)について 総務省において、厚生労働省などの関係省庁と十分に連携して無線通信に用いられる電波の安全性を適切に確保してきたところであり、御指摘は当たらないものと考える。(中略)
(七)について (中略)御指摘のような携帯電話用基地局の建設に係る紛争は、当事者である携帯電話事業者と周辺地域の住民との間におけるものであり、当事者間の話し合いによって解決されるべきものであるため、お尋ねについて、政府としてお答えする立場にない』
また、高圧送電線などから発せられる超低周波(ELF)の子供への影響に関する国会議員長妻昭氏の質問に対して、やはり当時の内閣総理大臣(小泉純一郎氏)から次のような答弁書が返されています(電磁波(超低周派・ELF)の子どもへの影響に関する質問に対する答弁書平成15年9月30日受領 答弁第一〇六号)
『お尋ねの電磁波の一週間の平均値が〇・四マイクロテスラ以上となる小学校等の名称、所在地及び教室などの数は承知していない。
また、御指摘の「生活環境中電磁界による小児の健康リスク評価に関する研究」においては、(中略)
全体の症例数が少な過ぎること等の理由から、「本研究の結果が一般化できるとは判断できない」と評価されたところであり、現時点において、小学校等の教室などに対する対策については考えていない。
なお、世界保健機関においては、居住環境における超低周波電磁界へのばく露に係る住民の健康リスク評価に関する検討が行われているところであり、政府としては、当該検討の状況も注視してまいりたい。
超低周波電磁界の人体に対する影響について科学的知見が明らかでない現時点においては、高圧送電線が新設される際、政府として近傍の住宅及び小学校などについて配慮をすることは特に考えていない』
このように、現段階において電磁波対策後進国のままでは、かつての環境問題と同じように、私たち国民の健康と安全は不安とリスクを強いられているといっても過言ではありません。
しかし、何かあってからでは遅いので、一日も早く世界の潮流に則した対策を講じることが望まれます。