世界的に著名な研究者たちによってまとめられた『バイオイニシアティブ報告書2012』についてご紹介しておきましょう。
『バイオイニシアティブ報告書2012』は、副題が「生物学にもとづく高周波ならびに超低周波の公衆被曝基準のための理論的根拠」となっており、10ヶ国にわたる29名の政府機関や企業から独立した科学者たちが分担執筆した報告書です。
主な執筆者は、学術誌『生体電磁気学』を刊行する生体電磁気学会に所属するメンバーで、同報告書は2007年に出版された最初の版の改訂版にあたります。
この調査で対象となったのは、電力線、電気配線、電化製品、携帯端末による電磁波と無線技術(携帯電話・コードレス電話、基地局タワー、スマートメーター、Wi-Fi、無線ノートパソコン、無線ルーター、赤ちゃんモニター、その他の電子機器による電磁波です。
健康面の調査項目としては、DNAと遺伝子の損傷、記憶・行動・注意力への影響、睡眠障害、がん、アルツハイマー病などの神経疾患です。
21章1500ページからなる膨大な量のこの報告書は、2006年から2011年にわたって発表された約1800本の関連論文にも新たに検討を加えた、電磁波健康影響に関する最新、最大の「レビュー事典」として知られています。
以下、参考までに要点のみ記しておきます。
『バイオイニシアティブ報告書2012』
・私たちを取り巻く環境中の電磁波発信源が著しく増加し、低レベル恒常的曝露の度合いがますます高まっていることから、これまでよりもはるかに厳しい電磁波曝露の規制を一刻も早く打ち立てることが必要である。なぜなら、胎児や乳幼児をはじめとする脆弱性の高い人々への影響を示す証拠を含めて、その要求を裏付ける科学的証拠が以前よりも増大し、確かなものとなってきているからだ。
・とりわけ、マイクロ波を含む「携帯基地局、Wi-Fi、無線インターネットパソコン、スマートメーターなどからの高周波の恒常的曝露においては、2007年版で指摘されていたレベルよりもさらに低い電磁波強度において健康リスクが生じる恐れがあり、それは2007年版に報告されたものより3桁も低い(1000倍ほど小さい)レベルである。
・携帯電磁波と脳腫瘍(特にグリオーマ:神経膠腫)との関係について、X線などの放射線での発がんでは通例潜伏期が15年から20年ほどあるのに比べて、携帯電磁波では、累積1640時間以上の曝露といったヘビーユーザーでは10年ほどで発症する。
・幼少期から携帯電話を使用してきた若者がそうでない若者と比較して20歳代でのグリオーマの発症が5倍になる。また、コードレスフォンも携帯電話と同様の影響がある。
・脳腫瘍以外にも、低周波並びに高周波の曝露と関係していると思われる深刻な疾病として、白血病、神経損傷による疾患、アルツハイマー病、ALS(筋萎縮性側索硬化症)があり、自閉症の発症リスクを高める可能性を示す強力な証拠がある、として、妊娠中もしくはこれから妊娠する可能性のある女性に対して、子供が自閉症を患うリスクを減らすには、電磁波曝露を減らすべきだと勧告。
・さらに、乳がん、免疫機能の低下によるアレルギーの発症や炎症、流産、心疾患など増加傾向にある疾患との相関性も指摘されているとともに、携帯電話基地局周辺地域でみられるような低レベルでの恒常的な高周波曝露がもたらす、睡眠障害、記憶・認知機能障害、脳波の異変にも言及している。
・電磁波被爆の感受性の高い人々として、胎児、乳幼児、児童、高齢者、慢性病患者、電磁過敏症発症者が挙げられる。そうした人々が低レベル恒常的曝露によって健康被害を受けることを示唆するデータが増えてきたことから、推奨する高周波の制限値が、2007年版では1000μW/㎡(=0.1μW/c㎡)だったものが、2012年版では3~6μW/㎡(=0.0003~0.0006μW/c㎡)に強められた。