帯電障害による症状は、うつ病の診断基準と一致する

実際、メンタルクリニックは、札幌でもどこもいっぱいで、予約が取りづらい状況が続いています。

しかし、私はメンタルクリニックを受診される患者さんの中には、帯電障害で具合が悪くなった方が多く含まれていると思っています。

なぜかと言うと、これから述べるように、帯電障害とうつ病の症状が大きくオーバーラップしているからです。

言うまでもなく、帯電障害はうつ病ではないので、抗うつ剤や抗不安剤を飲んで症状が改善しても治癒することはありません。

帯電障害になると自律神経のバランスを崩しやすく、その結果やる気が起きなくなり、それにひどい疲れが重なって、気分が滅入ってしまうこともよくあることです。

ですから、一見すると、うつ状態に似ており、つまり、帯電障害の大きな問題点は、うつ病と診断されやすいことです。

この点は強調しすぎることはないので、もう一度帯電障害の特徴について説明しておきます。

帯電障害の典型的な症状は、ひどい疲れとだるさです。

 そして、よくあるのが、食事の支度や掃除などの家事がおっくうになってやりたくなくなることです。

これは、電磁波の影響ですが、自分ではわからないために、自分を責めたり罪悪感にとらわれたりします。

また、繁華街や電車の中など、電磁波が強いところに行くと調子が悪くなるので、外出するのも嫌になります。

さらに、思考力が落ちてしまうので、ものを覚えることができません。

以前と比べてあまりにも体調が悪く、何をしても楽しくありません。

交感神経が過度に刺激されているので、夜になっても眠られないか、とても眠りが浅くなります。

そこで、内科を受診し、採血をしても異常はなく、「どこも悪くない」と言われてしまいます。

それでも、本人のひどい疲れとだるさは取れないのです。

これからも、この状態がずっと続くかと思うと、気持ちばかり焦って落ち込んでしまいます。

そして、「もういなくなってしまいたい」と思うようになっても、おかしくはない状況に陥ってしまいます。

実際、多くの帯電障害の患者さんは、このように心身ともに追い詰められた状態でメンタルクリニックや精神科を受診しています。

 さて、一般的には、うつ病はどのように診断されているのでしょうか?

 ここからは、精神医学的な面から説明しておきましょう。

精神科においては、疾患を診断するにあたり、ほかの科のように血液検査や病理、画像診断のような客観的な指標はなく、最終的には精神科医の主観的な判断に基づきます。

このため、診断の参考とするために、代表的な症状を羅列した診断基準があります。

まず、アメリカ精神医学会(American Psychiatric Association)が作っている、心の病気に関する診断基準(DMS; Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)からうつ病の診断基準を紹介しましょう。

Ⅰ.DSM-5のうつ病の診断基準

DSM-5は、うつ病の症状を9つ挙げ、それを一定数以上満たせば、うつ病の診断基準を満たすとしています。

うつ病の症状については、次のようになっています。

1.抑うつ気分

2.興味・喜びの著しい減退

3.著しい体重減少・増加(1ヶ月で5%以上)、あるいはほとんど毎日の食欲の減退・増加

4.ほとんど毎日の不眠または睡眠過剰

5.ほとんど毎日の精神運動性の焦燥または制止

6.ほとんど毎日の疲労感または気力の減退

7.ほとんど毎日の無価値観、罪責感

8.思考力や集中力の減退、または決断困難がほとんど毎日認められる

9.死についての反復思考

これらのうち、

・5つ以上が2週間以上続くこと

・1か2のどちらかは必ず認めること

・苦痛を感じていること

・生活に支障をきたしていることを満たすと、「抑うつエピソード」であると判断され、

さらに、

・ほかの疾患を除外していること(たとえば薬で誘発されたうつ状態など)を満たすと、うつ病の診断基準を満たすこととなります。

 もう一つ、世界保健機関(WHO)が作成した「ICD(国際疾病分類)」第10版(ICD-10)のうつ病の診断基準を紹介しましょう。

ICD-10では、うつ病の症状を「大項目」と「小項目」に分けています。

「大項目」

1.抑うつ気分(落ち込んでいる気分)

2.興味と喜びの喪失(興味を持てない、楽しめないという気分)

3.易疲労感(疲れやすい)、 集中力と注意力の減退

「小項目」

1.自己評価と自信の低下

2.罪責感と無価値感

3.将来に対する希望のない悲観的な見方

4.自傷あるいは自殺の観念や行為

5.睡眠障害

6.食欲不振

症状の項目により、軽症から重症のうつ病に分類されています。

大項目2つ以上、さらに小項目2つ以上満たし、症状は著しい程度ではないものが軽症うつ病。

大項目2つ以上、さらに小項目3つ以上満たし、そのうちの一部の症状が著しい程度であるか、全般的に広汎な症状を認めるものが中等症うつ病。

大項目3つ、小項目4つ以上満たし、そのうちのいくつかが重症であるものが重症うつ病とされています。

いかがでしょうか?

このような診断基準だけに基づくと、多くの帯電障害の患者さんが「うつ病」と診断されてしまう可能性があることを理解していただけると思います。

いったん、うつ病と診断されると、当然抗うつ剤が投与されます。

しかし、原因が身体に溜まった静電気である以上、症状は改善されることはなく、却って悪化するかもしれません。そうすると、うつ病の悪化ととらえられてさらに抗うつ剤の追加という負のスパイラルが起きてしまう可能性もあります。

こうした点からもわかるように、帯電障害とうつ病は症状が似ていても治療法は全く異なります。もし帯電障害がうつ病と診断されてしまったら、患者さんにとっての不利益はかなりのものでしょう。

DSM-5の診断基準では、症状は、

・物質(例:乱用薬物、投薬)の直接的な生理学的作用でないこと

・一般身体疾患(例:甲状腺機能低下症)によるものではないこと

・死別反応ではうまく説明されないこと

などの除外基準にも触れられています。

帯電障害によるうつ様症状は、帯電という物質の直接的な生理作用で起きるという認識が医師の間で広がれば、帯電障害がうつ病と診断されることはなくなるのではないでしょうか。